アール・ヌーヴォーと
アール・デコの違い
アール・ヌーヴォー(Art Nouveau)とアール・デコ(Art Déco)は、フランス語の名前が似ているため頻繁に混同されますが、時代・様式・思想がまったく異なる2つの装飾芸術運動です。前者は自然の曲線を、後者は機械の直線を美とする。ミュシャとレンピッカを並べれば違いは一目瞭然。本ページでは時代・様式・代表作家・代表建築を4軸で整理します。
植物の蔓ならヌーヴォー、幾何学のジグザグならデコ
一覧比較
| アール・ヌーヴォー | アール・デコ | |
|---|---|---|
| 時代 | 1890〜1910頃 | 1920〜1940頃 |
| 頂点の年 | 1900年パリ万博 | 1925年パリ現代装飾美術博(アール・デコ博) |
| 語源 | 「新しい芸術」 | 「装飾芸術」(décoratifs の略) |
| 思想 | 自然回帰・手仕事・工芸復権 | 機械時代の讃美・大量生産との調和 |
| 形態 | 有機的曲線・非対称・植物モチーフ | 幾何学・シンメトリー・階段状・扇形 |
| 色彩 | 柔らかなパステル・自然色 | 黒・金・銀・原色のコントラスト |
| 代表作家 | ミュシャ、ラリック、ガレ、ホルタ、ギマール | レンピッカ、エルテ、カッサンドル |
| 代表建築 | ガウディ『カサ・バトリョ』/パリ地下鉄入口 | クライスラービル(NY)/エンパイア・ステート・ビル |
| 代表工芸 | ラリックのガラス(初期)・ガレの花瓶 | ラリック(後期)のクリスタル・エルテのファッション画 |
3ステップで見分ける
① まず線を見る ― 曲線か直線か
アール・ヌーヴォーの線は植物の蔓が伸びるような柔らかい曲線で、ムチのようにしなり、非対称に流れます(「ホイップ・ライン」と呼ばれます)。アール・デコの線は定規で引いたような直線・階段・ジグザグ。同じ女性像でも、ミュシャは頭上に植物のアーチ、レンピッカは頭上に幾何学の光線を描きます。
② 次にモチーフを見る ― 自然か機械か
アール・ヌーヴォーが好んだのは植物・昆虫(トンボ・蝶)・水・波・女性の長い髪など有機的な自然界のモチーフ。アール・デコはジグラット(階段状)・扇形(サンバースト)・光線・シェブロン・機械の歯車・自動車など人工物と幾何学が中心。ラリックは初期(ヌーヴォー期)にはトンボや花の宝飾を作り、後期(デコ期)にはクリスタルの直線ボトルへと移行しました。
③ 最後に代表作家を並べる
ミュシャ・ガレ・ホルタ・ギマール・クリムト(同時期・分離派)はアール・ヌーヴォー。レンピッカ・エルテ・カッサンドル・クライスラービルはアール・デコ。この2グループを覚えておけば、多くの作品を分類できます。ラリックは両時代をまたぐ稀有な作家です。
境界にいる作家たち
クリムトは正確にはウィーン分離派(Vienna Secession)に属し、アール・ヌーヴォーの中欧版として位置づけられます。ミュシャ後期の『スラブ叙事詩』(1912-1926)はデコ期にまたがりますが様式はヌーヴォーの延長。エルヴグレンやヴァルガスのピンナップ・アートはデコの延長線上(1940-50年代)にあります。
関連解説
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よくある質問
アール・ヌーヴォー(1890-1910頃)は自然界の植物・昆虫・女性像から着想した「有機的な曲線美」、アール・デコ(1920-1940頃)は機械時代を反映した「幾何学的な直線美」が最大の違いです。前者はミュシャ・ガレ・ホルタ、後者はレンピッカ・エルテ・クライスラービルが代表。第一次大戦を境に、装飾の理想が「自然」から「機械」へ移りました。
アール・ヌーヴォーが先です。1890年代のベル・エポック期にパリで開花し、1900年パリ万博で頂点を迎え、第一次大戦(1914-1918)で終焉。アール・デコは戦後1920年代の享楽的な狂騒の時代(Roaring Twenties)にアメリカとフランスで開花し、1925年パリ現代装飾美術・産業美術国際博覧会が象徴的な起点となりました。
曲線か直線かを見てください。植物の蔓・花・女性の髪が波のようにうねっていればアール・ヌーヴォー。ジグザグ・シンメトリー・階段状(ステップ・パターン)・扇形・光線モチーフが目立てばアール・デコです。クライスラービル頂部の放射状装飾はアール・デコの典型例です。