クリムトとシーレの違い
― 師弟が同年に描いた「愛」と「痛み」
グスタフ・クリムトとエゴン・シーレは、世紀末ウィーンを代表する二大画家です。実はクリムトはシーレの師であり、二人は作品交換や肖像画の相互制作を行うほど深い親交で結ばれていました。しかし絵に現れる世界は対照的です。装飾で包む「甘美」と、装飾を剥ぎ取る「痛み」。1918年、二人はスペイン風邪により同年に没しました。
15歳頃から交流・1918年に同年没
一覧比較
| グスタフ・クリムト | エゴン・シーレ | |
|---|---|---|
| 生没年 | 1862〜1918(56歳没) | 1890〜1918(28歳没) |
| 出身 | オーストリア・バウムガルテン | オーストリア・トゥルン |
| 関係 | 師・年上28歳 | 弟子・15歳頃から師事 |
| 所属 | ウィーン分離派(1897創立時の初代会長) | クンストシャウ・グループ(分離派から派生) |
| 技法 | 油彩+金箔・銀箔/濃密な装飾 | グワッシュ・水彩・鉛筆/鋭利な輪郭線 |
| 主題 | 愛・性愛・死・運命(装飾で理想化) | 肉体・不安・孤独・自画像(装飾なしで直視) |
| 色彩 | 黄金・銀・深い色面 | 赤・茶・くすんだ肌色・骨の白 |
| 代表作 | 『接吻』『ユディト I』『ダナエ』 | 『抱擁』『家族』『自画像』多数・素描群 |
師弟の共通点と決定的な違い
共通点:ウィーン分離派の系譜と「エロス」への正面性
二人は愛・性・裸体を美術の中心主題として正面から扱ったという共通点があります。19世紀末ウィーンの保守的な社会が「わいせつ」と切り捨てた領域を、装飾と象徴の力で芸術に引き上げたのがクリムト。その扉を、身体そのものの生々しさで押し広げたのがシーレでした。
① 装飾があればクリムト、装飾がなければシーレ
クリムトの人物は黄金・銀・幾何学模様に包み込まれ、背景と衣装がひと続きの装飾平面になります。対してシーレは、背景をほぼ空白にして人物だけを浮かび上がらせるのが基本形。装飾で美化するか、剥ぎ取って直視するかが、師弟の最大の分岐点です。
② ふくよかな女性像がクリムト、痩身がシーレ
クリムトの女性像は成熟した肉体・柔らかな曲線・穏やかな法悦として描かれます。シーレの人物は骨格の浮いた痩身、ねじれた指、鋭利な肩が特徴。同じヌードでも、クリムトが「肉体の甘美」を、シーレが「肉体の存在そのもの」を描いていると考えると見分けがつきます。
③ 『接吻』の対比 ― 恍惚と抱擁
クリムトの『接吻』(1907-08)は男女の輪郭が金の装飾に溶け、二人は永遠の恍惚の中にいます。対してシーレの『抱擁』(1917)では、皺のよったシーツの上で身体が絡み合い、抱擁の切迫感と汗の生々しさが画面いっぱいに広がります。クリムトは愛を装飾で聖化し、シーレは愛を肉体そのものとして提示するのです。
「シーレの黄金」を探していた方へ
「シーレ 金」「シーレ 装飾」で検索される方の多くは、クリムト作品を探しているケースが少なくありません。シーレは金箔・銀箔をほとんど使いません。師の装飾を継承せず、逆方向へ徹底したのがシーレのオリジナリティでした。もし黄金背景の名作を探しているなら、クリムト『接吻』『ユディト I』『ダナエ』『アデーレの肖像 I』をご覧ください。
関連解説
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よくある質問
別人ですが、深い師弟関係にありました。グスタフ・クリムト(1862-1918)はウィーン分離派の指導的存在で、エゴン・シーレ(1890-1918)はその弟子として15歳頃から交流。作品交換や肖像画の相互制作を行うほど親交が深く、奇しくも二人とも1918年、スペイン風邪により同年に没しました。
背景に金箔・銀箔を敷き詰め、女性像を装飾文様で優美に包み込むのがクリムト。骨ばった痩身、ねじれたポーズ、鋭利な輪郭線で心理の生々しさを剥き出しにするのがシーレです。装飾に包まれる「甘美」がクリムト、装飾を剥ぎ取った「痛み」がシーレと覚えると混同しません。
『接吻』(クリムト1907-08)は黄金の平面に男女が装飾模様と一体化した恍惚の絵。『抱擁』(シーレ1917)は皺の寄ったシーツの上で身体が絡み合う生身の愛。同じ「愛」の主題でも、クリムトは装飾で理想化し、シーレは肉体の存在をそのまま提示します。