ユディトとサロメの違い
― クリムトが描いたのはどっち?
「男の首を持つ女」―― 西洋美術には、この衝撃的な図像を共有する2大主題があります。旧約聖書外典の英雄ユディトと、新約聖書の王女サロメです。クリムトの名作『ユディト I』(1901)は、あまりの官能性ゆえに発表当時から「サロメ」と呼ばれ続けてきましたが、額縁には画家自身の意図として「JUDITH UND HOLOFERNES」と刻まれています。本ページでは、混同されやすい2人の物語・図像・代表作の違いを1ページで整理します。
額縁の銘は「JUDITH UND HOLOFERNES」・所蔵:ベルヴェデーレ宮殿(ウィーン)
一覧比較
| ユディト | サロメ | |
|---|---|---|
| 出典 | 旧約聖書外典「ユディト記」 | 新約聖書(マタイ伝・マルコ伝) |
| 身分 | ベツリアの町の敬虔な寡婦 | ヘロデ王の義理の娘にあたる王女 |
| 相手の首 | 敵将ホロフェルネス(アッシリアの将軍) | 洗礼者ヨハネ(預言者) |
| 首との関わり | 自らの手で剣を振るい斬った | 舞の褒美として首を求めた(処刑は他者の手) |
| 動機 | 故郷と民を救うため(救国の英雄) | 母ヘロディアの意向・舞の褒美 |
| 伝統的な持物 | 剣・首を入れる袋・侍女 | 首を載せた盆・七つのヴェール |
| 代表作 | クリムト『ユディト I』、カラヴァッジョ、ジェンティレスキ | モロー『出現』、ビアズリーの『サロメ』挿絵 |
見分ける3つのポイント
① 首の持ち主を見る ― 将軍ならユディト、預言者ならサロメ
最も確実な見分け方は斬られた首が誰かです。鎧をまとう髭の将軍ホロフェルネスならユディト、痩身で長髪の預言者・洗礼者ヨハネならサロメ。モローの『出現』では、ヨハネの首が光輪を放ちながら宙に浮かび、サロメを見据えます。首が「聖性」を帯びていればサロメの物語です。
② 剣と袋はユディト、盆はサロメ
ユディトは自ら手を下した英雄なので、剣と、首を持ち帰るための袋(または侍女)とともに描かれる伝統があります。一方サロメは自分では斬っていないため、盆(大皿)に載せられた首を受け取る姿が定番です。持物(アトリビュート)は西洋絵画の「名札」として機能します。
③ 世紀末は2人を意図的に混ぜた ― クリムトの「ユディト」が官能的な理由
19世紀末、男を破滅させる魔性の女「ファム・ファタル」への熱狂が頂点に達し、救国の英雄だったユディトまでもが官能の文脈で描き直されました。クリムトの『ユディト I』は、恍惚の表情で敵将の首に指をかける姿があまりに扇情的だったため、当時から「サロメ」と呼ばれて紹介されることが繰り返されました。画家の意図(額縁の銘)と世間の受容が食い違った、美術史でも有名な「誤解」です。
「クリムトのサロメ」を探していた方へ
「クリムト サロメ」で検索される方が実際に探しているのは、多くの場合『ユディト I』(1901・ベルヴェデーレ宮殿)です。クリムトは1909年に『ユディト II』も制作しており、こちらも鉤爪のような指の表現からしばしば「サロメ」と呼ばれてきました(ヴェネツィアのカ・ペーザロ所蔵)。
一方、世紀末の「サロメ」そのものを味わいたい方は、モローの『出現』と、ワイルドの戯曲『サロメ』に付けられたビアズリーのモノクロ挿絵をご覧ください。いずれも世紀末美術のファム・ファタル熱を象徴する傑作です。
関連解説
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よくある質問
サロメではありません。クリムト自身が制作した金属製の額縁に「JUDITH UND HOLOFERNES(ユディトとホロフェルネス)」と刻まれており、主題は旧約聖書外典のユディトです。あまりに官能的な表現だったため、発表当時から「サロメ」と呼ばれて紹介されることがありましたが、画家の意図はユディトでした。
ユディトは旧約聖書外典「ユディト記」に登場する寡婦で、故郷を守るために敵将ホロフェルネスの首を自らの手で斬った救国の英雄です。サロメは新約聖書に登場する王女で、ヘロデ王の前で舞を披露した褒美として洗礼者ヨハネの首を求めました。「自ら斬った英雄」と「褒美として首を求めた王女」という正反対の存在です。
ギュスターヴ・モローの『出現』(1876年頃)が最も有名です。宙に浮かぶ洗礼者ヨハネの首とサロメが対峙する幻想的な水彩画で、世紀末のサロメ熱の起点となりました。オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』(1891)とオーブリー・ビアズリーの挿絵も、この主題を世紀末の象徴に押し上げました。